昨今、世界の金融機関が、コンタクトセンターのパフォーマンス向上が顧客獲得競争の鍵であることに気づき始めています。本コラムでは、コンタクトセンター運営の国際標準規格である「COPC(Customer Operations Performance Center)CX規格」を導入した金融機関の最新事例とその活用方法について解説します。
インドと日本における銀行コンタクトセンターのCOPC認証取得
約7,000km離れた2つの銀行が、ほぼ同時期に素晴らしい成果を上げました。インドの大手銀行であるアクシス銀行が、総合銀行として初めてCOPC CX規格の認証を取得。これに続き、2025年3月には愛媛県の伊予銀行も、日本の地方銀行として初めてこの認証を取得しました。この2行の取り組みは、かつての製造業のように、金融機関のコンタクトセンターにおける「標準化」が他社との差別化を実現する重要な要素となり得ることを示しています。
現在、世界70カ国以上で導入されているCOPC CX規格は、興味深いパラドックスを浮き彫りにしています。それは、このフレームワークに準拠することで、各金融機関が独自の優れた顧客体験を提供できるようになるというものです。
COPC社のアジア太平洋地域CEOであるイアン・エイチソン氏は、「銀行業界はこれまで、顧客との関係構築をサイエンスというよりもアートとして捉えてきました。COPC認証に取り組むということは、人の温かみを犠牲にすることなく、体系的なマネジメントを実装するということなのです」と述べています。
アクシス銀行の変革は、その良い例と言えるでしょう。2024年当初、同行のコンタクトセンターはCOPC CX規格の要件をほとんど満たしていませんでした。しかし、わずか1年後、リーダーシップ体制、テクノロジー導入、パフォーマンス管理など、組織的な改善を経て、すべての要件をクリアしました。さらに注目すべきは、顧客ロイヤルティを示す主要指標であるNPSが+59から+70に上昇し、サービスレベルも70%から90%以上へと大幅に向上したことです。
伊予銀行の認証取得は、「デジタルと人間的要素を高度に統合したコンサルティングフレームワークの構築」という、意欲的な目標を掲げた2024年度中期経営計画の一環として実現しました。認証取得に先立ち、伊予銀行はこれまで分散していた非対面チャネルを、単一の「ダイレクトコンサルティング部」に統合しました。これは、プロセスの効率性だけでなく、組織構造も重要であるという認識にもとづいています。
測定、改善、そして継続の重要性
COPC CX規格を導入したばかりの組織は、まず指標を測定することの必要性を強く感じます。この規格は、ほとんどすべての指標の測定を義務付けているためです。アクシス銀行は、VSF(Variance Significance Factor)のような統計的手法を用いて、プロセスのばらつきを定量化し、顧客対応時間において平均から大きく外れる担当者を特定しました。このような詳細な分析により、一般的なサービス目標だけでは不可能だった、的を絞った指導が可能になりました。
COPCの認証プロセスは特に厳格で、対象となる組織をサービス提供のスピード、顧客対応の質、業務効率、顧客満足度という4つの特定の側面で評価します。日本国内におけるCOPC認証活動は、CX領域の専門コンサルティング会社である株式会社プロシード(以下、プロシード)がサポートしています。プロシードは、この世界標準を維持しつつ、日本のビジネス環境への適用を支援しています。
COPC CX規格を活用したアプローチには課題もあります。厳格な測定システムを導入すると、はじめは「銀行側のサービス品質に対する認識」と「実際のパフォーマンス」との間に存在するギャップに直面し、多くの疑問が生じるかもしれません。しかし、本当に大きな進歩は、金融機関がこの手法を用いて、顧客にとって真に重要な指標に優先順位をつけ、行動を開始したときに訪れるのです。
両行は、認証取得にはリーダーシップ層のコミットメントが不可欠であることを認識しました。アクシス銀行の認証取得への道のりは4人の上級幹部によって推進され、一方、伊予銀行の変革は、戦略計画に明記され、三好賢治頭取によって統括されました。このような経営層の関与こそが、取り組みを成功に導きます。ここに、放置され頓挫してしまう多くのコンタクトセンターとの大きな違いがあります。
両行の事例で最も興味深い点は、標準化と個別化(カスタマイズ)が必ずしも相反するものではないと理解したことです。一貫したプロセスと測定システムを確立した結果、両行は皮肉なことに、スタッフを煩雑なシステム管理から解放し、顧客一人ひとりのニーズに応えることに集中させることができたと言えます。
変革へのロードマップ
これからCOPC CX規格の導入を検討している銀行にとって、この認証プロセスは、困難ではあるものの明確なロードマップを提供します。まず最初に行われるのは、ベースラインアセスメント(現状診断)ですが、これは往々にして、経営陣が期待するよりもはるかに低い結果となることがあります。次に、リーダーシップ体制、パフォーマンス測定、テクノロジー導入、さらにスタッフ育成におけるギャップに対処するための体系的な改善計画が続きます。これらの改善を実施して初めて、銀行は認定された監査員による正式な評価を受けることになります。
この道のりにかかる負担は、金銭的にも組織的にも軽いものではありません。しかし、顧客獲得コストが上昇し続けるマーケットにおいて、その見返りはますます魅力的になるでしょう。この認証は銀行に、運用コストを削減しながら、一貫して優れた顧客体験を提供するマネジメントシステムをもたらします。
業界の専門家たちは、このアプローチが支持を得ているのは、まさに銀行が抱える二つの課題、すなわちサービス向上とコスト抑制を同時に解決できるからだと指摘しています。この手法が、ばらつきや無駄の削減、資源配分の最適化に重点を置いている点は、シックスシグマ(※品質管理におけるフレームワーク)やリーン生産方式といった製造業の原則から多くを借りていますが、これらはサービス業向けに応用されています。
人と共生するデジタル
注目すべきは、両行が今回の認証を終着点ではなく、さらなる革新のための基盤と捉えている点です。伊予銀行は2025年5月に新本社への移転を控えており(コンタクトセンターは6月に新本社に移転し、3つのセンターが1つの部署の下に統合される)、そこで「世界標準の高品質な顧客対応」を維持しつつ、新たな価値提案を開発していく計画です。一方、アクシス銀行は、今回の認証がより高度なデジタルと人間の融合のためのプラットフォームを創造すると考えています。
銀行業界がこのような基準への関心を高めているのは、高度なデジタルサービスに慣れた顧客が抱く、より良いサービスへの期待に、より広く対応しようとしていることの表れです。銀行の顧客は、テクノロジー基盤で得られるようなスムーズなやり取りを期待する一方で、的確なアドバイスを提供できる専門知識を持った担当者による確かなサポートも強く望むようになっています。
COPC CX規格の導入を検討している銀行に対し、先行導入者からのメッセージは明確です。「COPC CX規格がフレームワークとして構造化されているからといって、台本通りになるわけではない」、そして「標準化されているからといって、すべてが同じになるわけではない」というメッセージです。銀行の顧客体験は一見矛盾だらけの世界ですが、そこで他社と差別化を図るサービスを生み出すには、標準化がますます不可欠な道となっているのです。
「センターパフォーマンスの測定の仕組み化に抵抗がある銀行は、往々にして顧客が本当に伝えたいことに耳を傾けようとしない傾向があります」と、アクシス銀行の認証評価を主導したCOPC監査員のアヌプ・クマール氏は述べています。これは短期的な収益機会の損失だけでなく、長期的な顧客離れやブランドイメージの低下といった、非常に大きな代償を伴う可能性があると言えるかもしれません。
株式会社伊予銀行のCOPC認証取得に関するニュース、またCOPC認証支援に関する詳細はこちらをご覧ください。