【前編】CX時代に勝つ!コンタクトセンターの「ブラックボックス化」がもたらす危機と「VMO」機能の戦略的役割
はじめに:なぜ、ベンダーマネジメントは「戦略課題」になったのか
現代のコンタクトセンターは、単なるコストセンターではありません。顧客接点の中核を担い、顧客体験(CX)価値向上の成否を握る戦略的な部門へと進化しています。多くの企業が、専門性の取得、人員確保、そしてコストコントロールを目的として、運営の一部または全てを外部ベンダー(コンタクトセンターの運営業務の一部またはすべてを、委託元企業に代わって提供する外部の専門会社)に業務を委託しています。コンタクトセンター業務は門外漢だからと「全部お任せします!」と委託業者に「丸投げ」のようなことをしてしまうと、企業価値を毀損するリスクを高めるおそれがあります。
部門責任者、VMO担当者、そして経営企画部門の皆様に求められているのは、ベンダーを単なる「外注業者」ではなく「対等なビジネスパートナー」として位置づけ、共にCX戦略を推進する体制を構築することです。本コラム【前編】では、多くの企業が陥る「運営のブラックボックス化」の実態を論理的に解説し、これを打破し企業価値を高めるための「VMO(Vendor Management Organization)」機能の戦略的な役割について深掘りします。
第1章. コンタクトセンター運営の「ブラックボックス化」がもたらす危機
コンタクトセンター運営を外部に委託している企業にとって、最も深刻な課題の一つが「運営のブラックボックス化」、つまり運営状況が不透明な状態になってしまうことです。この状態が続くことは、企業に以下のような致命的なリスクをもたらします。
1-1. 成果の不透明性(適切な評価の困難さ)
ベンダーから提出されるKPIレポートは、形式的には満たされていても、それが本当に自社の事業戦略やCX目標と結びついているのか、実態としての顧客体験や品質を反映しているのかが不透明になります。
例えば、AHT(平均処理時間)が改善していても、それが「顧客満足度を犠牲にした対応の簡略化」の結果であれば、むしろ企業価値を下げています。しかし、ブラックボックス状態では、この”裏側”を見抜くことができず、委託料の妥当性も検証不能に陥ります。
1-2. 改善機会の逸失(原因特定とアクションの困難さ)
顧客からのクレームが増加したり、NPS(顧客推奨度)が低下したりしても、その根本原因が「ベンダー側のオペレーションマネジメント不足」にあるのか、それとも「委託元(自社)の不備」にあるのかを特定することが難しくなります。原因が不明確であれば、具体的な改善策を講じることはできず、貴重な改善の機会を逃し続けます。
1-3. 事業戦略との乖離(顧客接点の「あるべき姿」の喪失)
コンタクトセンターがCX戦略の中核を担う現在、委託先は契約書に書かれたSLA(Service Level Agreement)やKPI(Key Performance Indicator)の達成を最優先します。しかし、このKPIが最新の企業戦略や顧客の期待値を反映していない場合、「顧客接点におけるあるべき姿」と「実際の運営実態」が乖離していきます。その結果、ベンダー依存が高まり、自社が顧客接点における主導権を失うことになります。
第2章:戦略的ベンダーマネジメントの要諦「VMO」機能の確立
この危機を脱し、ベンダーを真のパートナーとするためには、VMO(Vendor Management Organization)機能の確立が不可欠です。VMOとは、委託先との関係構築とマネジメントを組織的・体系的に行うための機能または組織体制を指します。
2-1. VMOは「監視役」から「成長の促進役」へ
重要なのは、VMOを単なる「監視役」ではなく、「連携強化と成長の促進役」として位置づけ、ベンダーと一体となって事業目標を達成するために共に成長し合う体制を構築することです。
VMOは、以下の活動を通じて、コンタクトセンター運営とビジネスの両面で深い見識を持ち、ベンダーの専門能力を最大限に発揮させることを目指します。

2-2. 実践のカギ:ベンダーを真のパートナーにするための着眼点
ベンダーを対等なパートナーとして機能させるために、VMO担当者が実践すべき具体的な着眼点を解説します。
| 実践のカギ | ベンダーとの関係性における具体的な行動指針 |
| 目標の共有と連動 | ベンダーに、事業戦略上の最終目標(例:LTVの最大化)を共有し、KPIを連動させる。 |
| 業務量の予測精度向上 | 委託元が責任をもって、正確な業務量予測(コール数など)を行い、ベンダーのリソース確保を戦略的に支援する。予測精度が悪いと、サービス品質とコストに強く影響します。 |
| 可視化と相互の説明責任 | KPIだけでなく、プロセス、スキルレベルなどを可視化し、双方が説明責任を持つ体制を構築する。 |
| スキル検証と能力開発 | 委託元が求めるスキルレベルを明確にし、ベンダーの教育体制やスキルレベルを客観的に検証する。対価に対するスキルの定義と根拠を検証することが重要です。 |
| 専門性への敬意と活用 | ベンダーの持つベストプラクティスやノウハウに敬意を払い、それを活かした改善提案を積極的に求める文化を育む。 |
まとめ
ブラックボックスを解消し、真のパートナーシップを築くためには、その出発点であるRFP(提案依頼書)策定の段階で、戦略的な設計を施すことが不可欠です。
【後編:実践編】では、「ブラックボックスを設計から解消するRFP策定の極意」を、具体的な成功事例を交えて解説します。さらに、DX時代を見据えたベンダー選定の着眼点についても詳しくご紹介します。
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