【特別対談】「CXの今と未来」Orange社×プロシード

2019.12.06

フランス国営通信として150年以上の歴史を持ち、フランス国内外の複数拠点でコンタクトセンターを運営する「Orange」社。同社のCustomer RelationのVPであり、オムニチャネルやデジタルチャネルの戦略を担うPierre Grauby氏は、COPC規格委員会(※1)においても、デジタルアシステッドチャネル(※2)の領域をリードする立場でもあります。2019年プロシードベンチマークサミットの基調講演のため来日した同氏と、プロシード・シニアコンサルタントの五味、菊池とが、Orange社におけるCOPC活用の効果や、CXを加速するための取組みについて、対談しました。

◆ Introduction

菊池:今回はベンチマークサミット講演のために、遠路、フランスからお越しいただき、ありがとうございます。Orange社はグローバルで事業を展開されています。まずは、オレンジ社の規模や事業について教えてください。

Pierre氏:フランスをはじめ、ヨーロッパ、アフリカ地域の29か国で、個人/法人向けの固定電話・携帯電話事業の他、インターネット事業、コンテンツ配信事業等を行っています。コールセンターでは、年間約5億コールを、75,000人のエージェントが対応しています。またデジタルチャネルでは年間50億以上のコンタクトがあり、また実店舗として世界に5,000店舗以上があります。

菊池:29か国ですか、すごいですね。日本では地域差はあまりないですが、業界によって顧客のニーズに違いがあります。Orange社では、国の違いによる顧客のニーズが多様化しそうですね。

Pierre氏:その通り、国によって顧客のニーズが異なるのは事実ですね。カスタマーサポートが重要な国もありますし、製品そのものの使い方や、単に製品やサービスの価格を重要視する国もあります。その国特有のニーズを正しく把握する事が、まず第1歩と言えるでしょう。

五味:CXの推進、といっても一筋縄ではいかないということですね。Pierreさんは、どのように進めていらっしゃるのですか。

Pierre氏:これはOrange社に限った話ではないと思いますが、顧客コンタクトに関しては、チャネル毎に縦割り組織で管理しているケースが多いです。これはCXを考えると決して望ましいやり方ではありませんが、簡単に変えられる部分ではないのも事実です。

五味:その点は日本も同じですね。日本においても、対面、電話、Webなどの顧客コンタクトチャネルによって、所管部門が異なるということがほとんどです。そのため、CX向上という方針は目にするけれども、顧客視点の活動ごとに起点から終点までの体験を考えた設計になっていないケースが多いと思います。どうしても、顧客視点ではなく、企業視点になりがちです。

菊池:日本でも、オムニチャネルを推進する企業もありますが、どうしても企業風土が邪魔をして、一部のチャネルだけの最適化になることもあります。

Pierre氏:そこをいかに顧客視点に転換するか、ということが重要なんですが、なかなか難しい。特に大きな会社では、中々転換できない傾向にあるのではないでしょうか。実はOrange社でも、顧客視点を重視した設計を実現するまでには、10年以上とだいぶ時間がかかりました。コンタクトチャネル毎で考えるのではなく、いかに顧客視点で考えるか、です。

◆ CXを加速するための取り組み

五味:日本では「CX向上」と言っても、まだまだ「おもてなしの応対」や「寄り添った応対」にさらに磨きをかけよう、といったような使われ方をしがちです。また、CXを中心とした話をしようにも、グループ会社やクライアントの意向が強く働いて、思うように進まない、といったことが往々にしてあります。Orange社では、「CXを加速させるための取り組み」はどのようにされているのでしょうか。

Pierre氏:Orange社では、6つのカスタマージャーニーを定義しています。
①私は購入する、②私はアカウントを管理する、③私は苦情を言う、④私は契約を更新しない、⑤私は支払う、⑥私はHelpを必要とする。この6つのカスタマージャーニーに対して、ジャーニー担当ディレクターを各々置いています。そのディレクターが、ジャーニー毎のチャネルミックスや顧客戦略の責任を負っているのです。

五味:なるほど、日本では、チャネル毎に責任を持つ管理者を配置するイメージが強いのですが、それぞれのジャーニーに責任を持つディレクターを配置しているのですね。

Pierre氏:そうです。どのチャネルがそのジャーニーにおけるお客様のニーズに一番マッチするか、というのは違います。つまり全てのチャネルで同じ機能をコピーして実現するのは望ましくないと考えています。従来、チャネル毎に戦略を考えていたディレクターは、そのチャネルにおいて決められた戦略の実行者となっており、結果として責任範囲が狭くなっていました。

菊池:そもそも企業が、自分たちの顧客のジャーニーを正しく理解しているか。日本でもカスタマージャーニーという言葉は数年前から様々な企業で聞かれるようになりましたが、マップ化するだけで満足している印象もあります。企業の戦略の入り口として、カスタマージャーニーは当たり前に考えるものだと感じました。

◆ デジタルアシステッドチャネルの取り組み

五味:COPCでは、規格の次のリリースから、お客様によるセルフサービス(自動)のチャネルを指す「ノンアシステッド」という言葉をやめて、「デジタルアシステッド」という言葉を使うことになりましたね。その、デジタルアシステッドの領域においてのOrange社での取り組みはいかがでしょうか?日本では、往々にしてデジタルアシステッドチャネルはその「導入」が目的となってしまっており、CXを高めるために導入した、というケースは、決して多くないのが現状ですが。

Pierre氏:市場ごとにボイスボット、チャットボットを戦略的に導入していますね。

五味:つまり、市場=顧客のニーズにあわせて、ボイスボット、チャットボットを導入するということでしょうか。

Pierre氏:それもありますが、我々としては、チャットボットよりもボイスボットの方が、その後に波及する有人チャネルのトランザクションを少なくする効果があると考えています。また、デジタルへのお客様の抵抗感も乗り越えられると思うようになってきました。これはポーランドでの話ですが、お客様が一通話の中で最初は「ロボットと話すのは嫌だ」という態度だったのに、的確なやり取りと問題がスムーズに解決したことで、「役に立ったよ、ありがとう」とあたかも人に話しかけるようになるところまで変化した、という事例があります。

菊池:それはたいへん興味深いですね。日本でのボイスボットの事例はほとんどありませんし、チャットボットですら「機械が相手だ」との、ネガティブな意見が出る組織もあります。

Pierre氏:私もこれは大変興味深く思いましたね。実は、最初から「Jingo」という機械の名前で名乗り、声もあえて、マシン(ロボット)の音声にしています。お客様は最初から、エージェントが人ではないことを理解しているのです。次はスペインでの展開を予定しています。もちろんすべての市場で同じ効果があるかというのは未知数です。なので、今後も市場を分析し、その市場にあった戦略を立てて実行するというスタンスに、変わりはありません。

◆「呼減」「効率化」など、コールセンターが直面する課題への取り組み

五味:カスタマージャーニーに基づく、チャネルに関係しない顧客リレーションの最適化は魅力的ですが、現実的には、まだまだ部門が縦割りで、コールセンターの担当者の方が苦労しているケースも少なくありません。また呼量増への対応や継続的なコスト削減の要望など、直面している課題に対応することが求められている担当者と多く話をします。

Pierre氏:確かに、そうですね。しかし呼を0にすることはありません。有人による「声のサービス」は、今後も残るでしょう。私どもは、呼量を毎年、前年度から15%削減することを4年にわたり継続することに成功しています。前工程のミスや、製品、設計の悪さなども直さないと、呼量は削れません。この問題に対し、以前、CEOから「自部門のミスは、自部門でクリアせよ」というメッセージが出ました。これは単にメッセージだけでなく、週次ミーティングで進捗を共有するPJにもなり効果的でした。センター独自では、解決率を高め、再コールを減らすことしかできないでしょう。またCOPCの得意な領域の1つですが、効率性の改善も当然ありますし、コールリフレクション(デジタル化による有人からでデジタルチャネルへの移行)も効果的です。

菊池:昨今では、バズワードとして「RPA」をよく耳にしましたが。

Pierre氏:RPAは、悪いプロセスをそのままコピーするかもしれません。しかし、それでも少しは成果があるものですので、活用してコストを浮かし、次の投資に活かすことはできるでしょう。また、新しいチャネルの導入は、今までコンタクトしていないお客様からのコンタクトが増えます。そのため、チャットとチャットボットなど、有人とデジタルチャネルを並行して導入することが有効です。

◆Orange社とCOPC

五味:Pierreさんは、COPCの規格委員会に参加され、様々な情報を発信されていますが、Orange社では、どのようにCOPCを活用しているのでしょうか。

Pierre氏:Orange社では、2011年にチームを結成し、COPCの活用を開始しました。今では、11か国で認証を取得しており、また10か国で認証を取得するための活動をしています。数値的な面では、やはり顧客満足度をベンチマーク基準で達成していること。またトータルでのコスト削減として、約35百万ユーロの効果がありました。定性的な効果としては、いわゆる「共通言語」が確立できたこと、標準(=スタンダード)を設定することができたということが大きいですね。これは当社の市場がフランス、フランス以外のヨーロッパ、アフリカであるということ、また、コンタクトセンターの成熟度、市場の成熟度のいろいろな面で単一ではなかったという背景がありますが。

五味:共通言語、スタンダードの確立が実現したというのは、日本の認証企業でも、効果としてよく耳にします。拠点毎の異なった運営や属人的な運営が、COPC導入により標準化された、などです。もちろんパフォーマンス向上についても効果が大きいです。

Pierre氏:Orange社では、COPCの直接の効果があったと考えられるものだけに特化して、計算して見るようにしています。例えばコスト削減について言えば、コンタクトの削減(主に再入電の削減)、効率性の向上、顧客満足度の向上による効果の3点です。

菊池:現在、10か国で認証取得の活動中と伺いましたが、最終的には全世界で導入するのですか。

Pierre氏:必ずしもそうではありません。COPCの認証活動に関しては、国ごとに顧客が何を重視しているかによって選択して決定しています。そのため、価格設定で、どの会社の製品を選ぶかが決まってしまっている市場であれば、COPC認証ではなく、自社でCOPC規格をカスタマイズした難易度の低いスタンダードを導入しています。ところで、日本では、何社が認証を取得しているのですか?

菊池:今日現在、19社22組織です。そしてCOPCが様々なサービスで活用されています。過去も含めると、受電、架電、督促、在宅、テクサポ、ケースマネジメントなどです。

Pierre氏:認証組織数は多いですね。店舗での認証活用はありますか。

菊池:以前、店舗でのCOPC活用を提案したことはありますが、まだ活動に至っていません。

Pierre氏:もったいない!COPCは店舗でこそ非常に有効に活用できます。店舗のオペレーションでは売上や利益といった財務以外の、オペレーション分野の活動が数値化されていないことに気が付きました。COPCを活用するよう説得するのは簡単ではありませんでしたが、今では店舗のディレクターも導入したことを喜んでいます。Orange社では、現在6か国、173店舗でCOPCを活用しています。これは、約25百万もの顧客接点を持っています。プロシードは、日本国内で、もっと店舗に対するCOPC活用を推進すべきです。

五味、菊池:仰る通りですね、ぜひ推進していきます。ありがとうございます。

 
 

◆最後に

菊池:最後に、日本でCX向上を推進する方に、何かメッセージをいただけませんか。

Pierre氏:オムニチャネル戦略を進めるためには、全社の承認を得てジャーニーを合意することが必要です。Orange社では、その形を作るのに、数年を費やしました。また、ジャーニーの成果が出るのに数年かかりますので、中には反対している人もいました。Orange社では、2025年までに、デジタルアシステッドと人によるアシステッドの融合による優れたカスタマーリレーションを提供することをお約束します。CXを推進する皆さんには、CXを高めることが企業価値を高め成長につながるということを理解し、進めていただきたいですね。

五味、菊池:どうも、ありがとうございました!

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※1:COPC規格委員会:COPCを活用するユーザーや有識者によって構成される。年に2回以上の委員会の開催や、コミッティーを通じた業界研究などを行っている。
※2:デジタルアシステッドチャネル:顧客コンタクトにおいて、サービスが提供される際に、企業側の人(オペレーター、エージェントなど)を介さないチャネル。顧客セルフ解決するチャネルで、WebのFAQや申込サイト、チャットボットが代表的である。

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