昨年11月号の豆知識では、電話がオペレーターに繋がる前の「ノンアシステッド」の顧客体験の話をしました。今回は、電話がオペレーターに繋がってからの顧客体験の向上について、応対者の教育の観点からお伝えします。
「自分でも、コールセンターに電話をかけてみるといいよ」
私が新米オペレーターだった頃、指導担当の先輩から、よく言われていた言葉です。インターネットが繋がらない、家電製品の電源が入らなくなった、そんな時に自力で解決しようと奮闘したり、諦めて買い替えたりする前に、コールセンターに電話してごらん、と言うのです。
そんなある日、自宅のインターネットが何をどうしても繋がらなくなったため、先輩の言葉を思い出し、コールセンターに電話をかけてみよう、と思い立ちました。
すると、
「電話番号が、わからない」
電話をかけようとしてまず困ったのは、簡単には、電話番号が分からない、ということでした。利用明細など探すこと30分。ようやくサポートセンターに電話をかけます。すると今度は
「電話が、繋がらない」
当時、コールセンターで働いていた私は、いったいどれほどお客様をお待たせしていたのか。私は、待たされる身の辛さと、延々と繰り返えされるガイダンスと音楽を恨めしい気分で聞きながら、一人の顧客として「早く誰か電話に出てくれないかな」と、その時を待ち望んでいました。ようやく電話が繋がり、テキパキとした感じのオペレーターが私のサポート担当を申し出てくれました。
しかし、
「話を聞いてくれない」
彼らには彼らのヒアリングの順序があったのでしょう。しかし、困っているうえに、長いこと待たされて気持ちが萎えてしまった私は、うまく自分の状況を伝えることができず、しどろもどろな説明は「ではこちらから順番に伺いますのでよろしいですか?」と、あっという間に遮られてしまいました。
「言っていることがわからない」
オペレーターはてきぱきと「必要な」情報を訊いてきます。しかし、当時、自称「ITスキルはそこそこ」と自負する私も全く歯が立たないスピードと華麗に専門用語を駆使するオペレーターとの会話は、半分以上、何を言っているのかわかりませんでした。結局、機器の交換で問題が解決したのですが、電話を切った後、非常にぐったりしたのと同時に、
「自分はこんな思いはお客様にさせるものか!」
と強く思ったことを記憶しています。
先輩はなぜ「自分でも、コールセンターに電話をかけてみるといいよ」と言ったのでしょうか?先輩は特に何も言いませんでしたが、
「顧客の体験を、自分でも体験しなさい」
という指導だったのだ、と今は、はっきりと理解しています。そして、そこから得た「自分はこんな思いはお客様にさせるものか!」という強い思いはその後の、顧客応対の品質向上に対する、大きな原動力に繋がったと言えます。
あれから10年以上経ち、顧客体験は「CX」という言葉で、まるで真新しい概念のように語られることが多く、
「”顧客体験”をよりよいものにするために、オペレーターをどのように育成するのか?」
という悩みも、耳にする機会が増えました。
しかし、案外、答えはシンプルに、目の前にあるのかもしれません。”顧客体験”を体験する、相手の立場に立って考えるということは、経験がなければ、想像することですら、なかなか難しいものです。最近では「体験教育」と言って、例えば介護の職に従事する方が、特殊なヘッドフォンを用いて高齢者の「聴き取りづらさ」を体験する教育をしているという話も聞きます。
皆さまのセンターでは、オペレーターに、”顧客体験”教育は行っていますか。ぜひ参考にしてください。