CX通信は、国内の顧客体験関連ニュースから カスタマーセンターでも活かせるポイントをお届けする連載コラムです。
2022年11月にリリースされたchatGPTはいまだに大きな話題となっており、国内外でAIをカスタマーセンターへも応用する事例が多数出てきている中、皆様の組織でもAIの活用について計画・検討が進んでいるのではないでしょうか?
今回のコラムではカスタマーセンターにおいてAIを活用する際のポイントについて解説いたします。
皆様の情報収集、計画立案にお役立て頂けると幸いです。
AIのカスタマーセンター・サービスへの応用におけるポイント
- カスタマーセンターにおけるAI活用概況と理由(CXとAIは相性が良い)
- カスタマーセンターで主に活用可能なAIの種類
A. Generative AI(生成AI)の応用におけるポイント(chatGPTがそのまま使えない理由)
B. Analytical AI(分析AI)の応用におけるポイント - AI”の”トレーニングのポイント(事例で見るCX応用のカギ)
①カスタマーセンターにおけるAI活用概況と理由
2022年弊社とCOPC社が協力し約1,000名のカスタマーサービス組織経営層向けに実施したアンケート調査の結果は以下でした。
・現在AIを活用していると回答したのは37%
・使用はしていないが今後計画はあると回答したのが38%
つまり2022年末の時点で、すでに3/4の組織では活用あるいその検討が具体的にされているということです。AIはカスタマーセンター領域に関わらず、様々な業界で活用が広まっていくと多くの研究機関でみられていますが、その中でもとくに活用が広まっていくのがカスタマーセンター・サービス・CXの現場だとみられています。
主な理由
- 繰り返しの作業が多く、自動化を行いやすい
- 業務量が多く効率化を行うことでのコストメリットも大きい
- ITやテクロノジーが運営の基盤にあることからAIのアウトプット品質に直接影響するインプット(データ)の抽出や選定が容易であり、その分導入・活用も容易
- 業務から得られるブランドやその顧客のデータはビジネスにとって非常に価値が高いが、分析含めた扱いが難しく、AIを活用した分析への期待が高い
VoCを含めたデータ分析のため、オペレーターのサポートのため、直接カスタマーサービスを提供するためなど、様々な場面でAIが今後ますます活用されることと見られていますが、主に活用可能なAIは次にご紹介する2種類となります。
②カスタマーセンターで主に活用可能なAIの種類
カスタマーセンターで主に活用可能なAIにはGenerative AIとAnalytical AIの二種類があります。今回はこの2種類に絞って解説致します。
まずはそれぞれの紹介をいたします。
- Generative AI
アルゴリズムをもとに、インプットされたものに対して、それに関連する可能性の高い情報・データを抽出しまとめアウトプットするもの。回答するAI自身はそれが正解かどうか識別することはできずあくまでも歴史的に、一般的に、可能性が高いとされるものを伝えているため、誤っていることもある。
Analyticalは事前に設定されたものを見にいくものであるが、GenerativeはインプットがされるまでAI自身も何を見に行くべきかわからないため、インプットを理解するための強力なアルゴリズムも必要
※インプット=例:音声あるいは文字での質問
- Analytical AI
プリセットされたパターンをもとに(人にはできない大量の)データ分析に活用できるもの。行わせたいことを行いデータセットの中に意味を見出すこともできる。
例:
i モニタリング=顧客やビジネスにとって重要なミスを予め人が特定し、AIにそれをもとにしてオペレーターの応対の中それらのミスが起きていないか、基準を満たす応対が行われているかチェックする。他に感情分析なども可能。
ii モニタリング結果分析=大量のデータから、ミスの傾向を分析をする。(従来は全件確認できるキャパシティがないことからもサンプリング、QA担当者による部分的チェックが主流)
A. Generative AI(生成AI)の応用におけるポイント
試された方もいらっしゃると思いますが、chatGPTの回答に対して間違いを指摘したり、ネガティブな感情を示すとchatGPTは謝罪します。どのような質問にも一通り回答することもできるため、そのままカスタマーサービスに使えるのでは?と印象をもつほどです。
しかし、そのまま使ったとしても良い顧客体験を提供するという意味では目的が達成されません。
理由は前述した通り、生成AIはAIが保有する情報から歴史的、一般的にインプット(例:利用者の質問)に関連している可能性が高い情報を抽出、それらをまとめてアウトプットするため、特定の組織の商品やサービスの情報がその中になければ本来求められる情報に辿り着かず「適当」ともとれる回答をするためです。
研修を受けないオペレーターをデビューさせると、そのオペレーターの歴史的(過去の経験)、一般的(主観)に基づく回答をすることが問題であることと同じで、如何にchatGPTが優秀でも、カスタマーサービスへの応用の場合、その回答は組織によって制限・コントロールされるべきです。
AIに覚え込ませる情報と回答の際のガイドラインを設ける「制限」が応用のポイントであり、これは後述するAIのトレーニングに含まれます。
※回答の仕方を「CXの観点から味付け」するのも重要ですが上述の内容と併せて後述致します。
B. Analytical AI(分析AI)の応用におけるポイント
分析AIのわかりやすいイメージは上述したモニタリングのミス判定です。工場の生産ラインでベルトコンベア上を高速で流れる商品から仕様に満たないものを弾くための識別作業などにも活用されています。
カスタマーサービスへの応用について代表的なのがモニタリングや感情分析などですが、ここでのポイントは、見に行かなければいけない点の理解と、その状況がなぜ起きたのか?論理的に原因を導きだすためのデータの紐づけとなります。
例えば、分析AIによる感情解析の場合、見に行かなければいけない点は、顧客の感情を表す特定の話し方になります。例えば早口や抑揚の変化、声量の変化、特定の単語などです。こういった「どこを見るべきか」先にAIへ教える必要があります。
また、感情やミスが特定できたとしても、その理由や原因が特定できなければ改善は難しいため、仮に顧客が怒った場合、それのトリガーになったものはなにか?を分析するための事前のデータ入力も重要になります。
例:
・顧客が声量を上げる=怒っている
・顧客の会話を遮る=怒りに繋がる
それぞれAIに覚え込ませ、それぞれの発生頻度などを追っていければ改善が可能なデータ収集に繋がる。
概略とはなりましたが最もお伝えしたかったのはいずれのAIでもカスタマーサービスへの応答のためには、その組織とその顧客に向けたカスタマイズが重要であるということです。
さて、AIによって仕事が奪われる!と叫ばれていますが、人材に例えてみるとそれは当たりまえです。
自分が元々行っていた仕事が引き継げる人材が入社したときあなたは何をしますか?
さらに専門性が高い仕事やマネジメントの仕事など、元々行っていた仕事よりも次元が高いものではないでしょうか。
AIにおいてもこれは同じことが言えます。何をAIに覚えさせるべきか、カスタマーサービスのまたはサービスジャーニーのどこでAIを活用すべきか、AIにどのようにサービスを提供させるか・どのように回答させるか、人の専門性を用いて行うトレーニングがAIの品質を左右するものであり今後さらに重要性が増す、AIができない人の仕事になります。
最後にこの人にしかできない仕事である、AIのトレーニングのポイントについてご紹介いたします。
③AI”の“トレーニングのポイント
AIへのトレーニング、つまりどのようなデータやガイドラインを入れるかは、そのままAIが提供するカスタマーサービスの品質に直結します。
AIにデータを入れる前に異常値やノイズを除去したり、分類したり整理することも重要ですが、カスタマーサービスにおいてはその組織にとって何が正しくて何が誤りかだけではなく、その組織、またその顧客にとって何が良くて何が悪いかAIに教えることも重要です。
なぜなら、カスタマーサービスにおいて必ずしも「正解」が「良い顧客体験」とならないからです。
特定のお問い合わせをする顧客はその後何をするのか?つまり問いに答えるだけでなく、追加で伝えるべき情報は何か?などお問い合わせの前後を把握した「回答」の紐づけこそが顧客体験にとって重要だからです。
以下は、一般的な情報 → 組織の正解・不正解 → 組織と顧客の良い・悪い と段階的にAIに教え込ませる情報を増やした際の回答の違いのイメージです。
【例:台湾旅行に行く際のローミングサービスについてのお問い合わせ】
質問:台湾へ旅行に行く予定です。ローミングサービスについて教えてください。
一般的な
情報
台湾への旅行におけるローミングサービスについて説明します。
ローミングサービスは、自国の携帯電話サービスを他の国や地域で使用するためのサービスです。
利用の際は台湾でのローミングサービスを提供している通信事業者を確認してください。自国の通信事業者のウェブサイトやカスタマーサポートに問い合わせることで、台湾でのローミングパートナーについて詳細を知ることができます。
またローミングは、通常、追加の料金がかかるサービスです。通信事業者によって異なるため、ローミング料金やデータ使用料などを事前に確認してください。また、ローミングパッケージや特別なプランが提供されている場合もありますので、それらを調べることもおすすめです。
一般的な情報に限られお問い合わせ後の「サービス利用」に繋がらない
+組織の正解
・不正解
こんにちは!
お問い合わせ頂きありがとうございます。
台湾でのローミングサービスについてはこちらから(URL)詳細をご確認頂けます。
お客様に合ったプランについて探したい場合、お客様のご利用状況やご予定を確認しながらご案内できる弊社ヘルプデスク(URL)までお問い合わせください。
他に、お手伝いできることはございますか?
お問い合わせ後の「サービス利用」に繋がるが、AI(chat bot)に聞いている意味があまりない案内で結局自分で調べたり、他のチャネルへ連絡しないといけない
+組織・顧客の
良い・悪い
こんにちは!
お問い合わせ頂きありがとうございます。
台湾でのローミングサービスはご利用時間の長さによって料金が異なります。それぞれのプランをクリック頂けましたら、ご購入手続きをすぐにさせて頂くことが可能です。
1時間プラン:XXX円
24時間プラン:XXX円
3日間プラン:XXX円
5日間プラン:XXX円
7日間プラン:XXX円
データ容量については現在お客様が日本国内でご利用されているものを利用します。ご契約内容についてご案内することも可能ですが、ご本人確認ができたあとのご案内となります。ご希望の場合はこちら(URL)をクリックください。
「サービス利用」の動線がスムーズでchatbotで完結できるプロセスになっている
例の通り、一般的な情報はその名の通り一般的な情報でありお問い合わせの後にある目的「ローミングサービスを利用」にまったく繋がらないものであり、カスタマーサービスとは呼べないものです。
続いて、組織的な正解の方は、お問い合わせに回答こそしており、作業ができるURLをリンクで送ってはいるものの、別チャネル(Web)に誘導するものばかりでシームレス・エフォートレスな体験ではありません。
最後の組織および顧客的な良い体験の方は、クリックをするとそのままchatbot上で購入手続きが完了する設計でシームレス・エフォートレスな体験を提供しています。
このようにお客様が何を求めているか?理解できている人がAIをトレーニングするとしないとでは、顧客体験に大きな違いがでるため、ただ単にデータを入れ込むだけでなく、CXの観点から良い・悪い回答を教え込んでいくことも重要となります。
AIを使ったカスタマーサービスも、オペレーターによるカスタマーサービスも原則は変わりません。お伝えしてきたとおり、どのような情報を教えるか(トレーニング)が重要となります。
センターにはIT基盤をベースに運用してきた背景から、AIに入れ込める情報は蓄積されているケースが多いです。ただし、有効なトレーニング素材としての情報が蓄積されているか?はまた別の問題になります。
これまで挙げた例で言うと、
・AIにチェックさせるモニタリング項目は本当にお客様にとって重要な項目か?
・お問い合わせ内容に回答する際、追加でお伝えしないといけない情報は何か?
など、マネジメントの観点でも、CXデリバリーの観点でも今の顧客体験への理解の深さや組織の管理水準の高さがそのままAIの品質に関わります。
AIはオペレーターのサポートであっても、顧客のサポートであってもCXに大きなインパクトを与えるもので今後ますます活用が広まることが予想され、活用前からマネジメント基盤を整えることが間違いなくAIを活用したCX向上に寄与します。
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