海外センター通信は、海外カスタマーサービス関連最新情報やトレンドをお届けする連載コラムです。
シックスシグマは1980年台に開発された不良を最小限に抑えるためのプロセスマネジメントフレームワークです。そこからさらにトヨタ生産方式のムリ・ムダ・ムラをより強化して管理するためのエッセンスが組み込まれたのがリーン・シックスシグマというフレームワークです。海外の組織では当たり前のように使われている考え方ですが、日本の組織での活用は多くありません。
今回のコラムでは、一般的なプロジェクトの進め方に照らし合わせてこの考え方の紹介をさせて頂きます。センターの採用や研修、人員計画、顧客エンゲージメントなど、顧客体験関連業務のほぼすべての側面での改善を推進することができるこのフレームワークを貴社のセンター改善にお役立て頂ければ幸いです。
リーン・シックスシグマの活用方法
- 組織にとって重要なすべての「声」を見つけ、傾聴する
- 結果に悪影響を及ぼす原因因子を特定、検証する
- 改善の効果測定と①~③の例
①組織にとって重要なすべての「声」を見つけ、傾聴する
改善のための最初のステップは問題の特定です。リーン・シックスシグマの場合、まず「対象」が誰・何であるかを特定し、それぞれの「声」に耳を傾けてニーズを理解することが、これにあたります。一般的なのは顧客や従業員、またビジネスやプロセスの声です。
- 顧客の声(Voice of Customer (VoC))
顧客の期待、好み・嗜好
例:顧客満⾜度、不満⾜度 - 従業員の声(Voice of Employee (VoE))
従業員満⾜度などのデータで示される、勤務態度や企業、仕事への愛着 - ビジネスの声(Voice of Business (VoB))
ビジネス上の定量的な目標
例:財務指標:売上、コスト・非財務指標:市場シェア - プロセスの声(Voice of Process (VoP))
データで示される、プロセスの能⼒、再現性、安定性
顧客・従業員・ビジネスの声は多くの組織で指標が決まっており定期的な分析の対象となることが多いためイメージしやすいですが、プロセスはどうでしょうか。プロセスの結果である上述の指標を測定しているため分析する必要がないようにも思えますが、改善を進めるうえでは非常に重要な分析の対象になります。
プロセスにはカスタマーサービス全般の顧客が直接受けるものもあれば、その品質を高めるための運用サポートとして顧客は直接受けない舞台裏に存在するものも含まれます。 顧客の声の一例が顧客満足度であることをお伝えしましたが、関連するプロセスはこの場合例えば「モニタリングにおけるミスの精度」などになります。
ロイヤルティ、スキル、パフォーマンスなどよく設計されたプロセスであっても、時間の経過とともに、人材、技術、顧客のニーズ、政府の規制などの変化により、効果がなくなることもあるため適切な改善を行うためにはプロセスも含めすべて管理していくことが望ましいです。
リーン・シックスシグマでは、プロセスを含むこれら全ての声を適切に分析することで、それを重要な「要件」に変換し、その要件を満たすようにプロセスを設計・再設計することができ、この方法をCTQ(Critical to Quality)ツリーと呼んでいます。これは、顧客体験のマネジメントにおいて定性的な声を定量的な測定可能で実行可能なものに変換するのに有効な方法です。
②結果に悪影響を及ぼす原因因子を特定、検証する
改善の対象、問題が特定されたあとはそれの解決・改善のための原因分析です。上述の内容でアウトプット、つまり最終的な指標(例:顧客満足度)に影響を与えるのはプロセス(例:モニタリング)のため、これにも目を向けることが重要とお伝えしました。このステップではさらに深堀して原因を分析する必要があります。
プロセスに影響を与えるのはプロセスの「インプット」です。すべてのプロセスにはインプットに依存しており、インプットは機能、時間、品質に関する正確な要件を満たしていなければいくら優れたプロセスでも期待するレベルのアウトプットにはつながりません。またインプットが1つでも欠けると、プロセス全体が台無しになる可能性もあります。
※上の図にある「要因」がインプットです。
※あるプロセスのアウトプット指標は、別なプロセスのインプット指標になりうる場合がある
※一般的にサポートプロセス(間接作業)のアウトプット指標は、お客さま関連プロセス(直接作業)のインプット指標になる
※インプット指標は必ずしも一つとは限らない
シックスシグマはもともと製造業で活用されていた考え方なので、物に例えてみるとイメージが湧きやすいです。例えば、ケーキを作る場合、生地、クリーム、トッピング、そしてオーブンなどの機材もインプットとなります。これらのインプットがすべて正確に要件を満たしていれば、おいしいケーキが作れる可能性は高くなります。しかし、これらのインプットが1つでもずれていれば、求めているレベルのケーキはできません。(複数のインプットが要件を満たしていなければ、不満レベルのケーキができる可能性もあります。)
最終的においしくないケーキが出来上がり、それを改善しようとした場合、最後に砂糖を直接かけることもいくらか効果はありますが正しい改善とはいえません。重要なのは製造プロセスとインプットの管理となります。ただしケーキを作るのには様々な材料、プロセスがあります。しらみつぶしに改善していくのは時間と労力のムダになります。重要な影響を及ぼすものを把握し、それを観察することで何が改善のために効果的か把握することで貴重な時間とリソースを浪費せずに済みます。
モニタリングの場合、例えばそれを受ける従業員も、チェックをする考課者も、カリブレーションの結果(評価基準合わせ)などもインプットとなります。インプットは上述のCTQのなかで特定・検証され、プロセスが望ましい結果をもたらすように管理されなければなりません。リーン・シックスシグマの様々なツール・手法は、これらのインプットを特定し、検証するのに役立ちます。
③改善の効果測定と①~③の例
改善の対象・問題、また原因が特定できたあとはそれの改善に移ります。リーン・シックスシグマではとくに改善における原因特定や改善の効果測定に重きを置いているためどのように改善するのか?という観点は少ないです。改善の方法についてはCOPC規格のマネジメントフレームワークを活用することができます。
ここまで改善のステップを紹介していきましたが、リーン・シックスシグマではこの改善のためのステップをDMAICと呼びます。
DMAICの最後のフェーズはC:コントロールです。対策を講じた後に指標の変動を観察し、意図した結果になっているかを確認します。改善案をテストし、その結果を測定・分析し、それに応じて改善手法そのものを調整することになります。
例:顧客満足度の改善
対象・問題:顧客満足度がベンチマークの85%以下である
原因分析(この結果に至ったプロセス、インプットは?):
・モニタリングスコアを見てみると同じ期間のスコアは98%と合格ラインの95%以上で問題はなかった。
・このことから、主要な原因はモニタリングの項目が顧客の求めているものとずれていることであると考えられた。(A)
・また同時にモニタリングにおける判断方法が間違っている可能性も考えられた。(B)
(B)
カリブレーション(判断基準合わせ)を再度行ったところ、考課者によって甘口な方もいれば、辛口な方もいることが分かった。
(A)
またカリブレーションの結果から評価基準が正しい考課者のモニタリング結果を抽出し、モニタリング対象者であるオペレーターの顧客満足度結果と照らし合わせたところ、モニタリング結果が低いグループと高いグループの顧客満足度に明確な差はなく、そもそもモニタリングの項目が顧客の求めているものとずれていると判断した。
改善:
(A)CTQツリーを用いて主な顧客の声を分析し、モニタリング項目および各種指標の再設計を行った。
※ほかの改善手法についてはプロセスマネジメントのベストプラクティスがまとめられている規格書をご参考ください。
効果測定:顧客満足度は伸びており、顧客満足度とモニタリングスコアにも相関がある分析結果が出たため、この改善手法を継続して活用し、経過観察することにした。
リーン・シックスシグマは元々製造業から発展してきた考え方ですが、ムリ・ムダ・ムラを抑える観点ではカスタマーサービス組織と非常に相性のよい考え方です。実際にコンタクトセンターのパフォーマンスを向上させるためにリーン・シックスシグマを使用することで、根本的な業務上の問題を特定し、効果的な組織的な変化・改善を実施することができると世界中で実証されています。
この考え方を活用しようと思うと製造業をもとに学び、カスタマーサービスへの応用についても考える必要がありますが、COPC®リーン・シックスシグマ イエローベルトコースでは、コンタクトセンター向けに特別に設計された手法を学ぶことができます。ご自身のペースで学べるオンラインコースも、組織のスーパーバイザー・マネージャーに集まって頂き行うオンサイトコースが好評です。ぜひこの機会にご検討ください。
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